甲山
あらすじ:
中一の夏休みが始まると同時に、住み慣れた東京から兵庫県西宮市のマンションに引越ししてきた莉緒。
玄関脇にある5畳ほどの洋間は、ピンクのカーテンのある絵に描いたような女子中学生の部屋だったが、夏休みをこの部屋でこもりっきりの生活を過ごし後一週間ほどで夏休みが終わるという頃には、ママが叫ぶほどの”汚部屋”となっていた。
何もする気が起きない莉緒の前に現れたのは、「記憶喪失で成仏できないのだ。」と言うヤンキー少女の幽霊。
レイさんと名付けた幽霊を成仏させてあげようと、身元探しを手伝うことになった莉緒が知った真実とは・・・・・。
無事に成仏したレイさんと別れた莉緒は、これまで逃げていた「自分と向き合う」ことに。
作品より引用
「・・・・。今、あの山描いてるし」窓の外に見える、緑色の山を指さす。お椀を伏せたような、ポコッとした小さな山。関西に越してきて、唯一気に入っている光景だ。
「えっと、なんだっけ。この前ママが名前を言ってたけど・・・・。あ、甲山だよ!」「そっか、甲山か・・・・。なーんか妙に懐かしいような、心がザワザワするような気分やわ」
・・・・。いつもの山が見える。甲山だ。
「あの山のふもとでは、地滑りが起こったの」ママはポツリと言って、視線を手元に落とした。
「斜面が崩れて、ものすごい量の土砂が押し寄せてきて、家が何軒も飲み込まれたの。・・・・・」
出典:安田夏菜『レイさんといた夏』 講談社・文学の扉(2016年7月6日 発行)