西宮(場所の指定なし。主人公木谷の自宅が西宮と設定)、西宮球場
あらすじ:
民間初の放送局開局のために奔走した男の物語。この作品の主人公木谷は、実際に民間初の放送局を設立した者をモデルとしている。井上の作品にはこの他、「闘牛」などでも同人物をモデルとした作品がある 。
作品より引用
木谷が西宮の自宅へ着いたのは十一時だった。(中略) 木谷は湯を二、三杯頭からかぶると、風呂場を飛び出し、再び洋服を着て、家人に、今夜はもう帰れないだろうと言って家を飛び出した。 海岸から駅へ真直ぐに伸びている夜更けの舗道には、犬一匹通っていなかった。十間か十五間置きに、街燈が眩ゆい程の光を舗道に投げかけ、道の両側の赤松の幹がその付近だけ芝居の書割のように、不自然な色彩で鮮やかに浮かび上がって見えていた。
出典:『ある偽作家の生涯・暗い平原 <井上靖小説全集4>』 1974年7月 新潮社
初出:「文藝春秋」 1952年2月号