大岡昇平/酸素

夙川

あらすじ:

作者自身の勤務した帝国酸素がモデルの日仏酸素株式会社を舞台に、主人公の青年共産主義者・井上良吉と、それを追う特高の捜査員との虚々実々の駆け引きや、企業内の派閥抗争、軍部による企業の乗っ取りなど、手に汗握る展開で太平洋戦争前夜の緊迫した時勢を描く。
主人公・良吉は非合法活動のために関西の実業家たちのブルジョワ社会にも出入りし、日仏酸素株式会社の実力者瀬川の妻・頼子と関係を結ぶ一方、美貌の女流画家・藤井雅子との愛欲にも溺れていく。

作品より引用

《「(前段略)今夜は二科の藤井雅子さんのお家へ寄ります。亡くなったご主人がN大学出身だったんです。ええと、場所は夙川の…」
「知っています。僕も夙川の甲山アパートにいるんですから、毎朝前を通ります。お近づきになりたいな…」
(中略)
西海中尉が帰ったあと、会社の車はコラン達が乗って行ってしまったので、瀬川夫妻は三宮まで電車で行った。》
(「酸素」p.377)

《「失礼しました」といいながら瀬川は鍵を拾い、これ見よがしに振り廻してから、良吉に返した。勝田はそれが雅子のアトリエの、庭に面したフランス窓の鍵であるのを認めた。
(中略)
良吉は西灘の駅まで瀬川夫婦と一緒に阪急に乗って来た。瀬川はしかしその電車が三宮から折り返し、そのまま良吉の体を夙川に運ぶことを疑わなかった。》
(「酸素」p.396)

※引用元:「大岡昇平集 新潮日本文学 43巻」(昭和46年 新潮社 刊行)

出典:『酸素』 大岡昇平(1955年 新潮社 刊)

大岡昇平と西宮のかかわり>

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