田中康夫/オン・ハッピネス

夙川 ニテコ池 鷲林寺

あらすじ

東京の北端で母娘二人で倹しく暮らし、ファミレスでバイトする女子大生の摩耶。
西宮市夙川出身で有名事務機メーカーのお嬢様由美子は、東京湾を跨いで架かる大吊橋が目の前に見えるマンションの最上階に住む女子大生。
それぞれの生活の中で幸せを求めて暮らす二人が、某メーカーのイメージガールコンテストに出たことで偶然出会う。
その偶然の接点が、大どんでん返しの展開に。
意味ルビ/当て字ルビなど、ルビの多用も一つの特徴になっている。


作品より引用

阪急電車の夙川駅よりも北側には、生垣に囲まれたお屋敷が並んでいる。六甲山形から流れ出た川の土手の松並木も、大層、立派な枝振りだ。
耽美主義を追求した著名な作家が一時期、暮らした場所としても知られる。

六甲山系から流れ出ている夙川だけでなく、もう一本、老松川と呼ばれる小ぶりな川も、彼女の家の近くにはあるのだった。また、少し離れた満池谷町と呼ばれる場所には、ニテコ池という奇妙な名前の大きな池があって、春になると桜の花が咲き溢れるのだった。

香雪記念病院と呼ばれる其の入院先は、苦楽園から更に六甲山方向へと上がった場所に位置していた。

東京から帰って来て大井手橋と呼ばれる夙川に架かる小さな橋を渡る度、橘由美子はホッと一息吐く。・・・・・中略・・・・・・
その間に一本、歩行者専用の古い橋もある。蟋蟀橋と呼ばれるその橋を、幼い頃に祖父母や両親や妹と幾度となく渡ったことを思い出した。




出典:1994年3月25日 発行 株式会社 新潮社
初出:週刊朝日 1992年11月20日号〜1993年9月10日号で連載


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