朝倉宏景/あめつちのうた 

甲子園

あらすじ

野球部マネージャーだった雨宮大地は、勢いで甲子園球場を整備する阪神園芸に就職する。
運動音痴の大地は、野球から逃げるように家を出て一人暮らしを始める。

職場の先輩は元ピッチャーで、自分のやり場のない思いをセンスのない大地にぶつける。
大学生の真夏は、甲子園でビールを売りながら、歌手としての夢を追いかけている。
親友のピッチャー一志は、大学野球の場で同性愛者として正直に生きたいと悩む。

運動音痴で野球から逃げるように家を出て一人暮らしを始めていた大地は、自分を取り巻く人達の挫折や葛藤に関わりながら、自分も父との関係を掘り起こそうとする。

悩みながらもそれぞれの道を歩んで行くなかで、大地も裏方としてプロのグラウンドキーパーになることを決意し2年目の春が始まる。

大地が入社をして後輩を迎えるまでの1年間が描かれているが、神整備として名高い阪神園芸の地道なグラウンド管理技術と心意気も知ることができる。


作品より引用

着替えを終えて、通用口の6号門から出た。「はぅあ!」ふたたび大きく叫んでしまった。
街灯をスポットライトにして、一志が立っていた。はにかんだような笑顔を浮かべ腰のあたりで低く手を振っている。「友達が阪神園芸で働いているって警備員さんに言ったら、ここで待ってるといいよって、教えてくれたんだ」

泣いている母と、むっつり黙り込んでいる父と通用口の6号門前で合流し、救急車を待つ。
やがてサイレンを鳴らした救急車が前方の道にとまった。きっと中継などで傑の怪我を把握しているのだろう。野次馬たちが群がった。警備員さんたちが、その人だかりを制した。

駅前のスターバックスに入る。一志のお母さんは、俺の分の飲み物までいっしょに注文し、お代も出してくれた。
向かいあって、腰をかける。一志のお母さんは、どうにも落ちつかない様子で、真っ白い無地のブラウスのしわを気にし、しきりにいじっていた。話をどこから切り出すか、迷っているのだろう。




出典:2020年7月9日 発行 株式会社 講談社
初出:2020年6月15日号

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