阪神西宮、甲子園、武庫川
あらすじ:
田辺聖子さんの自伝的小説とも言われている『虹』は、田辺聖子さんの処女作。
主人公・坂野は金物問屋の労働争議に加担したことから、離職せざるをえなくなり、一緒に暮らす母親の水道料の検診をする収入に頼る生活。
なかなか再就職の目途もつかない中で、坂野の趣味の絵を書くことが認められ、やがて人形のマスクを描くことが収入に繋がっていきます。田辺さんの執筆生活をモデルにしていると言われています。
作品より引用
冬はまた六甲おろしの、容赦ない北風に吹き巻かれて、西宮の山地を巡る。水道屋のおば半と、呼ばれ、お仕着せの黒っぽい上着を着せられた背を丸め、おむつ入れのように不恰好な黒い鞄を、、、

甲子園のわたしの家から、出屋敷の問屋まで歩いて行ったというのも内職の金高の零細さを思うと、高い電車賃が惜しかったからだ。

お金がたまったら油画も買いたいナと値段だけ見るつもりで、西宮までのりこして商店街をぶらついた。

わたしたちはパンやリンゴを買い込んで、武庫川の堤へ行った。風がないので、春先のように暖かい。まばらな松林を背に座った。

発行所:(株)講談社
発行日:第四刷昭和54年5月25日
「うたかた」に掲載
虹(文芸大阪)二集 昭和32年1月