西宮港
あらすじ:
金子は関東大震災後の1976年10月ごろ、実妹の婚家先に滞在していた。その頃の西宮港を詠んだ散文詩。
作品より引用
白枯れた兼葭に白雲とび 新造の木船は其蔭に繁れてゐる。 おゝ、新しい木材の香よ!その素朴な組合が、高い舳が 日本の丸太檣が荒薦が空中にゆれる。 社殿の如き艫に『神明丸』と刻んである。 水の上の熾烈な木の情熱よ! それはまだ、出纜したことのない若い命である。 翻弄よ。走りゆく水よ。 それは、我心の荘厳な孤独である。
出典:『金子光晴全集 第一巻』 1976年4月 中央公論社
初出:『水の流浪』1926年12月 新潮社