清水博子/カギ

広田 夙川 苦楽園

あらすじ:

2000年の元旦、33歳の妹はネット上で日記をブログに公開している。妹は夫と1歳の娘と3人暮らしで、家探しに奔走している。一方、36歳の姉は、夫を病気で亡くしたあと、白金の豪邸でのなすところのない生活を日記に書く。姉妹の日記が交互に並べられ、それぞれが暮らす日常生活の差異が際立つ。

(解説)

作者の清水博子は、北海道出身で東京在住の作家だった。おそらくは、知人か家族に関西の阪神間在住者がいて、その聞き書きで、阪神間の「芦屋」界隈のハイソな住人の日常について書いている。この小説で作者が語る「芦屋」とは、西宮から神戸にまたがる阪神間の山手を総称した呼び名として登場している。だが、作中の語り手は、西宮市の苦楽園で子供時代を送ったという設定のため、西宮と芦屋の区別を細かく説明する。おそらく作者は、架空の「地元」意識を演じてみせており、阪神間の風俗と東京の風俗の違いを巧みに語っている。

作品より引用

神戸にいたころ元旦は廣田神社。厄払いなら門戸厄神。受験まえは友人と中山さんまで遠征しました。

きのうは散り桜の夙川公園で脱力し、芦屋のホテル竹園に泊まる。父の勤務先が所有していた苦楽園の社宅で暮らした一九八〇年代、夙川は夙川だった。

わたしは九歳から十八歳まで苦楽園で過ごしました。俗に「芦屋」とよばれる夙川界隈がもっとも輝いていた八〇年代でした。

「芦屋へ行こう」 夫はそう言うのですが、わたしが住んでいたところは正確には芦屋市ではなく西宮市です。 東京では田園調布は田園調布駅に、目白は目白駅にあります。 けれども兵庫県では芦屋という名がつく駅だけでも阪急芦屋川駅とJR芦屋駅と阪神芦屋駅の三つがあり、それぞれ住人の層が違います。
(中略)
阪急の夙川駅、苦楽園駅、甲陽園駅、芦屋川駅、岡本駅、御影駅のあたりは「芦屋」と称してさしつかえありません。
でも夙川駅と苦楽園と甲陽園駅は西宮市、岡本駅と御影駅は神戸市なのです。
西宮北口はたんなる交通の要衝、武庫之荘は高級住宅地ですが「芦屋」ではありません。
阪神でも香櫨園は別格であるとか、JR芦屋駅にはショッピングモールがあるので付近のひとが集まりやすいとか、いろいろです。

出典:『カギ』2005年、集英社

清水博子と西宮のかかわり>

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