水上勉/名塩川

名塩(現西宮市塩瀬町名塩周辺)

あらすじ:

紙漉き職人として、越前で妻子と暮らしていた弥右衛門。ある日彼は突然失踪した。はるばる七十里の山里を越えて、母娘は摂津国名塩の弥右衛門の元へと向かうが、そこには悲しい現実があった。江戸時代末期、名塩紙の紙造りにまつわる母娘の悲哀の物語。

作品より引用

摂津の名塩は深い谷である。谷の両側は屏風のようである。山裾に入母屋づくりの茅ぶき屋根がいくつもへばりついている。どこの家からも煙が出ている。紙漉く村である。この村口から、大川へそそぐ底のふかい川がある。岸にはいっぱい桜が植わっている。名塩の桜である。

出典:『短篇名作選 草隠れ』 1982年11月 構想社
初出:「オール讀物」 1969年1月 1号

タイトルとURLをコピーしました