田宮虎彦/江上の一族

夙川、阪神西宮東口駅周辺、香櫨園

あらすじ:

代々儒家としてしられた江上家は、多産の家系であったが当主見介の長子冷介だけが死ぬ。その子と比較され、複雑な思いを持ち次男の泉介は育ち、後に当主となる。その子の博介は、名門で秀才の江上一族に生まれたのに、ただ一人凡庸であった。しかし、生まれつき備わった不思議な魅力のせいか、少年から青年になろうという頃から、次々に女性たちに言い寄られ、家をでる羽目になる。その博介がニューギニアで戦死し、父泉介との確執が終わるまでを描く。

作品より引用

それから阪神電車に乗つた。西宮東口というところで降りて浜の方へあるいていつた。(中略)阪神電車から三四町で海に出る。海に出る前に酒倉の並んだ暗いかげをとおる。そこまで来て博介は深い息をすつた。芳醇な酒の匂いが冷たくただよつていた。嘉納吟醸銀正宗、そんな表札がかかつているところで、旧山陽道がつづいている。昔は松並木があつただろう様な一間幅の道が細く曲りくねつていた。

出典:「新選現代日本文学全集24 田宮虎彦集」1960年3月 筑摩書房
初出:「風雪」1947年7月

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