名塩
あらすじ:
緒方洪庵は大阪で適塾を開き、福澤諭吉などを育てた蘭学者。その妻八重は、摂津・名塩村から嫁いで洪庵を支え、わが子や塾生たちのよき母として幕末~維新という時代を懸命に生きる。その緒方八重の一生を描いたもの。
作品より引用
この村に紙漉きの技術が伝わったのは、文明七年越前から摂津に入った蓮如上人が名塩に教行寺を建てて以後のことだという。越前鳥の子紙と同じく名塩鳥の子紙が作られるが、元禄頃になると泥入りの間合紙という独特の風合いをもつ紙が開発された。この紙に絵を描くと、日に当っても色がやけずまた燃えにくいため、寺院や書院の襖紙として需要をふやした。そのうえ、泥をまぜるという変った製造法のため名塩村でしかできず、偽造がむずかしい点が買われて、藩札の原紙として多くの藩の注文も集まるようになった。
出典:『緒形洪庵の妻』 1988年2月 河出書房新社
初出:「近代風土」 1983年19号~1987年28号 (原題「蘭学者の妻」)