須賀敦子/ヴェネツィアの宿

夙川

あらすじ:

自身の少女時代から、留学時代に出会った人たちの想い出、父や母、おばとの思い出や葛藤をなど自身の心の内を描いたエッセイ集。

作品より引用

父がふたつの家庭をもっているのを知ったのは、私がはたちのときだった。いろいろ話したいことがあるから、帰ってきてください。戦後はずっと病身だった母から東京の大学の寮に手紙が来て、私は十一月のはじめの短い休暇に帰省した。父はふざいだったけれど、彼がこの夙川の家にいないことに私たちは慣れていた。

子供のとき東京にいた私たちにとって、神戸に近い岡本という住宅地に住んでいたこの伯母に会うのが、夙川の祖母のところに一家そろって「帰省」する夏休みと決まっていたからにすぎない。

・・・私たち親子も空襲が激しくなった東京をあとにして夙川に移ったのだったが、その後まもなく、こんどは伯母夫婦が・・・・・

・・・・戦争が激化して私たちの家のすぐまえの松林の丘に高射砲の陣地ができたり、西宮の旧市街が爆撃されたり、夙川の家もあまり安全とはいえなくなった昭和二十年の二月ごろだった。

出典:1993年10月1日 文藝春秋
初出:1993年10月1日

須賀敦子と西宮のかかわり>

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