野坂昭如/エロ事師たち

仁川

あらすじ:

〈お上の目をかいくぐり、世の男どもにあらゆる享楽の手管を提供する、これすなわち「エロ事師」の生業なり〉(新潮社HPより)

主人公のスブやんの生き様は、作者とほぼ同じ身の上をなぞっていて、戦後の大阪や阪神間を舞台に、裏社会の仕事を請け負う生活ぶりを活写している。いわゆる「エロ事師」を生業とする主人公が、下宿先の未亡人を内縁の妻とし、その連れ子である女子高生・恵子と3人でたくましく生き抜く人生模様である。
裏社会の仕事の様子が生き生きと描かれ、登場する市井の人々はみな、物悲しくも生命力旺盛である。
主人公が、作者自身の死に別れた妹と同じ名前である義理の娘を溺愛する姿からは、同じ作者による名作「火垂るの墓」に描かれた妹への思いと同じ愛惜が感じ取れる。
本作では、主人公は最後、事故死するが、義理の娘はしたたかに生きていくような印象で描かれている。まるで「火垂るの墓」を鏡写しにしたような小説である。文体も「火垂るの墓」と同じく、古典の語り物文学のような独特の語り口で、陰惨な現実をユーモア溢れる一場の夢のように軽やかに語っている。

作品より引用

男客は一業種から一名で、それもシナリオ・ライター、鉄ブローカー、証券会社重役、税関の役人、京都の大学助教授、尼ヶ崎の銘木屋、BGM制作会社社長、御影の地主と、まずこの場以外では絶対に顔をあわさぬとりあわせ。西宮北口に時刻をずらして集合させ、かりそめにも人眼にたたんようにと、そこから三人ずつ山荘へスブやん自身が案内した。
(「エロ事師たち」p.171)

初出:1963年(昭和38年)雑誌『小説中央公論』11月号掲載
出典:野坂昭如『エロ事師たち』新潮文庫

野坂昭如と西宮のかかわり>

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