原田マハ/おいしい水

西宮北口 夙川

あらすじ:

1980年代、バブル真っ最中の阪神間を舞台に、女子大生の不器用な恋愛を描いた小説。19歳の「私」は西宮の大学に通っている。毎週、阪急電車で神戸にアルバイトに通い、元町のコーヒーショップで時間を過ごす。常連客の素敵な男性への憧れは少しずつ恋心にかわっていき、ある日「私」は思い切って彼に声をかける。写真家の彼を追いかける「私」だが、気まぐれな態度に振り回されるばかり。

(解説)

小説『おいしい水』の作者、原田マハは公式プロフィールにあるように、関西学院大学の卒業生であり、学生時代を阪神間で送っている。その後、早稲田大学に入り、現在は東京在住の作家となっているが、小説の舞台に何度か阪神間を選んでいる。特に2014年の『翔ぶ少女』では、阪神淡路大震災直後の神戸・長田を真正面から描いている。
本作『おいしい水』は、等身大の若い女性のひたむきな恋物語が、伊庭靖子の都会的な挿画とのコラボレーションと相まって、おしゃれな本となった。

作品より引用

あずき色の電車は、大阪・梅田から、私の住む西宮北口という駅を通って、神戸・三宮、新開地まで走っていた。特急ならば、西宮北口から三宮まで十分ちょっと。物足りなくて、私はしばしば普通電車に乗った。
車窓から眺める風景が、何より好きだったのだ。
山側は北。海側は南。方向音痴の私でも、神戸では方角を間違えようがない。

毎週末乗るようになってから、この電車をデザインした人を尊敬するようになった。なぜなら、明るい緑の六甲山を背景に、夙川や芦屋の川辺の桜並木を抜けるとき、あずき色は風景に完全に溶けこんでいるからだ。冬の枯れ木立のあいだにも、この色はしっくりくる。三宮のデパートのネオンですら、この電車によく映えていた。

出典:原田マハ 著・伊庭靖子 画 『おいしい水』 2008年、岩波書店
初出:書き下ろし 2008年

原田マハと西宮のかかわり>

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