宮本輝/にぎやかな天地

甲陽園 播半 森林公園

あらすじ:

勤めていた出版社がつぶれ、非売品の豪華限定本を作ることでほそぼそと生計を立てている聖司は、祖母が亡くなる直前につぶやいた「ひこいち」という言葉に導かれ、また父の死にかかわる人々にも父に導かれるように出会う。それは、あたかも眼に見えぬ微生物が時間をかけて発酵食品をつくるようにである。〈富貴、天にある〉という言葉を独特の解釈により、物語化されていく。

作品より引用

聖司がそう思っていると、播半に呼ばれてやって来たのに、客の都合で不要になったらしい一台のタクシーが空のままUターンした。聖司は、あとさきを考えないまま、そのタクシーを停めた。  美佐緒は甲山森林公園をさらにのぼったところにある喫茶店に行こうと誘った。  若いカップルに人気のある喫茶店は、そこからの夜景が評判で、夜の十一時まで営業しているのだという。(中略)  車でなければここにやって来ることは不可能だという場所にあって、たしかに阪神間だけでなく、和歌山あたりの灯も見える喫茶店の窓ぎわに席がひとつ空いていた。(中略)  そして席についてコーヒーを註文したとき、聖司は、美佐緒が苦楽園口ではなく、甲陽園駅で電車から降りたことにやっと気づいた。

出典:『にぎやかな天地 下』 2005年9月 中央公論新社 
初出:「読売新聞 朝刊」 2004年5月1日~2005年7月15日

宮本輝と西宮のかかわり>

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