甲子園(住宅街)
あらすじ:
自殺によって夫を亡くした私は、子供を連れ、再婚のために奥能登に来る。しかし、理由も分からず夫に自殺されたことが忘れられない。かつて2人が出会った、死の雰囲気が充満していた日々を思い出しながら、それゆえにも、死の誘惑に導かれそうになる私の日々が、人間の寂しさに共鳴し、静かに描かれる。
作品より引用
「おんなじ盗むんやったら、金持ちのんを盗んだれと思て、甲子園まで歩いたった」(中略)甲子園の閑静な住宅地から、盗んだ自転車に乗って、この尼崎の露地裏に帰って来たら、気も滅入ってしもたんやろとわたしは思いました。
出典:『幻の光』 1983年7月 新潮社
初出:「新潮」1978年8月 8号